原子核物理はメイヤー・ヤンセンのシェルモデル(1949)の出現から現象の定量的な記述が可能となった。その段階から湯川の中間子論(1934)との関係があまり意識されなくなり、核力の研究を含むハドロン物理と原子核物理の間に大きなギャップが生じたといえる。最近、ハドロン物理ではパイ中間子を主役とするカイラル摂動理論が成功を収めており、原子核でのパイ中間子の役割についてもカイラル対称性の立場で再考しようという動きが世界的な課題になっている。
このような背景で我々はパイ中間子が原子核でもっとも働ける平均場モデルを提唱した。平均場ハミルトニアンがパリティーと荷電対称性を破るという定式化である。定量的には原子核が表面を持っていることが重要な役割を果たしている。この結果: 1.強いスピン軌道スプリッティングの効果が生じる。2.マジック数はパイ中間子が引き起こす。 3.ガモフテラー遷移が微細構造をもつ。などの現象が生じる。この二つの重要な対称性を平均場の範囲で破ることは、理論的にはさらにはこれらの対称性が回復する定式化を必要とする。現在はこの計算を行っているが、軽い核では結果が得られており、核力を用いて原子核の構造が平均場モデルで定量的に再現されることが示されている。
さらに大きなチャレンジが行われている。それはハドロン物理での基本的なラグランジャンを平均場近似と対称性の射影の方法で原子核物理に使うという試みである。平均場モデルの範囲での結果は得られており、現在は対称性の射影を行う努力を行っている。この記述が定量的になれば原子核がその構成粒子である核子が自らの質量を20%くらい減らすことにより、原子核を作り上げるという結論になる。カイラル対称性の部分的回復が原子核を作り上げているという新しい観点が出現する。He原子核の辺りの現象では、この考えのいくつもの証拠が存在している。講演では全体の研究の記述を行い、実験との比較の議論を行いたい。