原子核のかたちって?

身の回りのものは全て原子からできています。そして、原子は原子核と電子でできていますが、その重さのうち99.97%は原子核の重さです。こう聞くと、原子核を知ることは、私たちの生きている世界を知ることのような気がして、重要そうな気がしてきませんか?教科書にもあるように、原子核は、陽子と中性子という2種類の粒子でできています。原子核の種類は、陽子と中性子の数によって決まります。陽子の数によって原子番号(元素の種類が決まることは中学校で学びましたね。そして、たった2種類の粒子の数の構成が変わるだけで、原子核はそれぞれ異なる性質を発現するのです。

教科書には、ほとんど点のように描かれている原子核ですが、原子核は、内部の密度が大体一定で、表面がはっきりしているという性質を持っています。お餅とかスライム、宇宙空間に浮いた水滴をイメージしてみるとよいかもしれません。そして、原子核は、種類によってさまざまな形に変形します。

density
理論計算による16O核、20Ne核、24Mg核、28Si核の密度分布。

図は、原子核の密度分布の理論計算です。これをみてわかるように、まんまるな形だけではなく、みかん型やラグビーボール型、洋ナシ型など、さまざまな形があります。なんとなく球形になることを想像してしまいそうなので、ちょっと不思議ですよね。原子核はミクロの世界の「量子力学」という物理学の理論に基づき記述されるのですが、この量子力学的な効果で原子核が変形する理由が理解できます。

原子核の形がわかったからって、何が面白いのだろう?と素朴に思うと思います。実は、原子核は形がぶよぶよ変形する運動をすることで、励起(れいき)状態という、高いエネルギーの状態に変化します。ある原子核に、どのような状態があるかを調べることは非常に重要な課題です。例えば、宇宙のお星さまの中でどのように元素ができたかについて調べるといった学問的な問いに答えるためにも重要ですし、放射線を使った工業や医療のためにも重要です。

さらに、重い(=陽子や中性子の数がとても多い)原子核が大きく変形すると、そのままちぎれて、核分裂します。下の動画は、核分裂の様子を理論計算した動画です。一般に、陽子や中性子の間に働く核力は引力なので、原子核は自分たちでまとまっています。しかし、陽子の数が大きい重い原子核では、陽子と陽子の間の電気的な反発力が強くなり、ちぎれてより小さい原子核になります。これが核分裂です。

fission
258Fm核の核分裂のシミュレーション

今回は、原子核の「変形」に焦点を当てて、原子核の性質について少し紹介してみました。原子核理論の分野では、このような原子核の状態を、量子力学を用いて探索しています。原子核は、粒子の数が多いことと、陽子や中性子に働く核力という相互作用の性質が複雑であることから、理論計算することがなかなか難しい系です。原子核の性質を明らかにするために、さまざまな数値計算を行い、また量子力学に基づいて多体問題を解く理論の改良をおこなっています。