Sendai Nuclear Science Colloquium (No. 172)

重水と炭素を標的とした550〜1105MeV光子による二つのπ中間子生成の全反応断面積

篠崎 章久

University of Regina/MIT

日時:2003年06月06日(金) 16:15-

場所:大学院講義室(総合研究棟7階745号室)

このセミナーでは、炭素と重水の原子核を標的とした正負二つのπ中間子の光生成反応の実験結果を報告します。実験は東京大学原子核研究所1.3GeV電子シンクロトロンで行われ、標識光子の方法を用いて、大立体角スペクトロメータTAGXによって反応が観測されました。この研究は、最も軽いベクトル中間子であるρ0中間子の原子核内での性質を探ることが主な目的です。発端は、QCDの性質を核理論に応用した模型により、核物質内では核子ばかりでなくベクトル中間子の質量も2割程度小さくなっているであろうという理論報告に起因しています。この報告は、ハドロン状態からQCDプラズマ状態への相転移の兆しを通常の核物質内でも観測可能であることが具体的に示唆され、注目を集めました。その後、より現実的で精密なハドロン模型も提案されるようになり、高エネルギー重イオン衝突などによっても検証されるようになりました。標識光子を利用した東京大学原子核研究所の実験は、ρ0の極性を判別する際に極めて有利であり、理論との照合は興味深いものになります。また、軽核子からの正負二つのπ中間子の光生成反応はこのエネルギー領域でほとんど事例がなく、その他の反応チャンネルの全断面積の算出にも注意が注がれました。セミナーではその解析方法と結果を議論致します。

16:00より茶菓を用意いたします。