Sendai Nuclear Science Colloquium (No. 224)

SPring-8/LEPSでのTime Projection Chamberを用いたハイペロン光生成

藤村 寿子

京都大学

日時:2007年08月20日(月) 16:00-

場所:核理研三階大会議室

LEPSグループでは、大型放射光施設 SPring-8 の8 GeV 電子ビームに、3.5 eVの紫外線レーザー光を照射し、逆コンプトン散乱させて得られる最大2.4 GeVまでのγ線を利用し、閾値近傍でのφ中間子生成、ペンタクォークθ+の検証など、様々なハドロン物理の研究を行なっている。今回は、ハイペロン光生成反応実験のために開発された Time Projection Chamber (TPC) と、Λ*(1405) の構造に関する最近の研究成果を報告する。クォーク模型では、Λ*(1405) 1/2- は uds の 3クォークから構成され、Λ*(1520) 3/2- とスピン多重項を成していると考えられている。しかし、Λ*(1520) との質量差 100 MeV は、クォーク間の LS 力の寄与だけでは説明が出来ないという問題を抱えている。また、格子QCDを用いた最近の詳細な計算でも、単純なクォーク3体系の共鳴状態でΛ*(1405)の質量を説明することが出来ない。このため、Λ*(1405)はメソンとバリオンの分子的共鳴状態ではないかと従来から指摘されてきた。カイラル摂動理論を用いると、複数のメソン-バリオン共鳴状態によるチャンネル結合法から、アイソピンI=0とI=1の干渉項により、崩壊モードΣ±→π±p によってΛ*(1405)の不変質量分布の形が違うことが予言されている。このような理論的背景にも関わらず、過去のΛ*(1405) 生成実験はΣ*(1385)との分離の難しさから、非常に限られている。バックグランドとなるΣ*(1385)は、崩壊様式がΣ*(1385)→Λπ0→pπ-π0 であり、Λ*(1405) →Σ+π- / Σ-π+ → nπ+π- / nπ-π+ とは異なるため、崩壊する荷電粒子を測定すれば、これらを分離することが出来る。このため、TPCの開発を行なった。この TPC は、有感領域が直径350 mm、長さ750 mmと小型で、原子核標的を内蔵し、標的から20 mmの近距離から荷電粒子を測定出来ることが大きな特徴である。2004年にLEPS標準検出器系とTPCを用いて、原子核標的からΛ*(1405)を生成し、その質量分布を測定する実験を行った。現在は、Λ*(1405)のΣ-π+とΣ+π- の崩壊モードによる不変質量分布の違いを求めており、これらの解析状況を紹介する。