Sendai Nuclear Science Colloquium (No. 249)

強結合格子QCD から物質の相図と状態方程式へ --- 現状と展望 ---

大西明

京都大学基礎物理学研究所

日時:2010年12月21日(火) 16:30-

場所:理学研究科合同B棟721号室

QCDから核物質の相図と状態方程式の状態方程式を得ることは、原子核物理学における最大の目標の一つといえる。ここでの問題は、第一原理的アプローチである格子QCDのモンテカルロ計算がもつ有限化学ポテンシャルでの符号問題である。このため有限密度まで含めた核物質の性質を調べるには、なんらかの模型、近似、あるいはブレイクスルーが必要となる。強結合格子QCDは、結合定数が大きい極限から 結合定数の逆べきで展開する手法であり、有限密度QCD物質を記述する上で有望な方法の一つである。展開の次数を定めると平均場近似のもとでグルーオンの積分が解析的に可能となるため、符号問題を抑えることができる。我々はこの展開についての高次項を取り入れる研究を進めてきた。例えばゼロ密度では、有限結合効果とポリアコフループ効果をともに取り入れることにより、相転移温度のモンテカルロ計算結果がほぼ再現できることが明らかになった。一方、有限密度領域では閉じ込められ、カイラル対称性が回復した第3の相が現れる。 このセミナーでは、強結合格子QCDに基づく有限温度・密度における核物質の相図研究の最近の進展について紹介を行い、今後の発展の方向について議論する。また、高密度領域での相転移・状態方程式と高エネルギー重イオン衝突・コンパクト天体現象との関連についても議論する。