格子QCDサブグループへの大学院進学希望者へ (R7年4月12日更新)

ハドロン物理と量子色力学:
   ハドロン・グループで研究対象とする「ハドロン」とは強い相互作用をするバリオン(陽子や中性子など)やメソン(π中間子など)の総称です。強い相互作用の基礎理論は、ハドロンの構成要素であるクォークとグルーオンを自由度として 記述される量子色力学(QCD)として知られていて、このQCDを非摂動的に計算する方法として考案されたものが、格子QCD#と呼ばれる手法です。 当グループではこの格子QCDによる数値シミュレーションを幅広く研究の道具として活用して、ハドロン物理学をメインに研究を行っています。
  ハドロン物理学は ウィキペディア にも書かれていますが、研究対象となるハドロンが「強い相互作用をする物質」 ということで原子核物理学の一分野として位置づけられていますが、理論的手法 は素粒子論の基礎となる場の量子論およびゲージ理論に基づいており、素粒子・原子核にまたがる横断的な研究領域です。 また、初期宇宙や中性子星のような 高温高密度の極限状態における強い相互作用の変容からクォーク・ハドロン物質の物性を研究するという分野(QCD物性)では、宇宙物理や物性物理とも非常に深い関わりがあり、まさに理論物理の全領域を横断する研究領域ともいえます。


格子QCDサブグループへの大学院進学方法:
   格子QCDサブグループへの大学院進学希望者は、まず東北大学大学院理学研究科の大学院入試「原子核理論研究室」を志望して下さい。 原子核理論研究室では、学部の時の所属研究室が異なる分野であることは問題なく、素核理論以外の他分野(理論・実験問わず)からの受験も奨励しています。
   現在、原子核理論研究室では原子核(核子・ハイペロン多体系)を研究分野とするグループとハドロン(クォーク・グルーオン多体系)を研究分野とするグループがあります。前者の原子核分野の研究指導は、肥山教授が中心として行い、後者のハドロン分野では、私と渡邉准教授が行っています。私は格子QCDサブグループを主催し、主に、格子QCD計算を用いたハドロン物理を行なっています。

格子QCD計算による研究を希望して進学を考えている方は、大学院入試出願前に研究室を事前訪問して下さい。

注意:研究室内の指導学生の人数バランス調整のため、 格子QCD(ハドロン)分野を第一志望に受験した学生% を優先して論文指導することにしています。
%出願書類に「原子核理論」を第一志望とし、面接時に「格子QCD(ハドロン)」分野の志望を表明して下さい。

格子QCDサブグループの大学院生に望む資質
*素粒子・原子核・宇宙・物性の分野を問わず、とにかく「物理」が好きな人
*コンピューターを扱うことが苦にならず、どちらかというと好きな部類に入る人

私の研究指導した大学院生の研究テーマ
令和7年度、私が研究指導している大学院生は3名(博士課程が2名、修士課程が1名)です。
以下が現メンバー(2025年4月より): 卒業生: です。
研究テーマに関しては、これまで11名の学生がそれぞれ というテーマで修士論文の研究を行いました。現在M2の佐藤氏は というテーマで修士論文の研究を行っています。
博士に関しては、平成29年度に鎌田氏、平成30年度に野地氏、令和元年度に塚本氏、令和4年度に酒井氏、令和5年度に辻氏が という博士論文で学位を取得しています。

格子QCDサブグループでは、基本、格子QCD計算を用いた広くクォーク・ハドロン物理に関連するテーマを修士・博士論文として研究してもらいます。そのため、場の理論のみならず数値計算の技術の体得も重要なウェイトを占めます。

私自身の最近の研究成果ハイライトに関しては以下のものがあります。 [その1] また、2015年2月京都大学基礎物理学研究所で行なわれた滞在型ワークショップ でのレクチャーのスライド、2016年4月第8回高エネルギーQCD・核子構造勉強会でのセミナーのスライドも参考になると思います。 ここ10年の研究テーマとしては が挙げられます。

現在は特に筑波大学素粒子論研究室の計算素粒子グループ藏増教授、山崎准教授らを中心とする格子QCDプロジェクト(PACS Collaboration)にも参加し、 世界最速のスパコン富岳や富岳と同じ富士通A64FXを搭載したスパコンWisteria-O (Odyssey) などを使って、以下のような外部資金:
「格子QCDで探るハドロン構造におけるグルーオンの役割」 (科研費基盤研究(C):22K03612)
により、核子を中心とした、ハドロン構造に関連した研究を精力的に行っています。関連して、HPCI利用課題研究の課題責任者として取り組んだhp220050が第10回HPCI利用研究課題優秀成果賞(2023.10.26)を受賞しました。(受賞講演の動画はこちら)

これまで東北大学で指導している学生(博士課程)との共同研究で発表した原著論文としては

"Bethe-Salpeter wave functions of ηc(2S) and ψ(2S) states from full lattice QCD" (with Nochi),
Phys. Rev. D94 (2016) 114514 (arXiv:1608.02340)
"Numerical study of tree-level improved lattice gradient flows in pure Yang-Mills theory" (with Kamata),
Phys. Rev. D95 (2017) 054501 (arXiv:1609.07115)
"Nucleon form factors on a large volume lattice near the physical point in 2+1 flavor QCD" (with Tsukamoto),
Phys. Rev. D98 (2018) 074510 (arXiv:1807.03974)
"Nucleon isovector couplings in Nf = 2 + 1 lattice QCD at the physical point" (with Tsuji and Tsukamoto),
Phys. Rev. D106 (2022) 094505 (arXiv:2207.11914)
"Glueball spectroscopy in lattice QCD using gradient flow" (with Sakai),
Phys. Rev. D107 (2023) 034510 (arXiv:2211.15176)
"Equivalence between the Wilson flow and stout-link smearing" (with Nagatsuka and Sakai),
Phys. Rev. D108 (2023) 094506 (arXiv:2303.09938)
"Nucleon form factors in Nf = 2 + 1 lattice QCD at the physical point: finite lattice spacing effect on the root-mean-square radii" (with Tsuji),
Phys. Rev. D109 (2024) 094505 (arXiv:2311.10345)
"Glueball mass spectrum at finite temperature revisited: Constant contribution in glueball correlators in the deconfinement phase" (with Arikawa and Sakai),
Submitted to Phys. Rev. D (arXiv:2504.09120)
"Method for high-precision determination of the nucleon axial structure using lattice QCD: Removing πN-state contamination (with Tsuji)",
To be submitted to Phys. Rev. D (arXiv:2505.*****)

国際会議発表論文としては、2024年夏に、研究室の学生と共に参加したLattice 2024の
"Extraction of the S-wave and P-wave DD scattering phase shifts using twisted boundary conditions" (with Nagatsuka),
Proc. of Lattice 2024, PoS LATTICE2024 (2025) 090, arXiv:2410.09815
"Applying the Triad network representation to four-dimensional ATRG method" (with Sugimoto),
Proc. of Lattice 2024, PoS LATTICE2024 (2025) 038, arXiv:2412.14104
があります。

Lattice2024の開催されたリバプール大学において、一緒に参加発表した学生との記念写真

それ以外の研究業績については発表論文一覧をご覧下さい。


以下は格子QCDサブグループの学生の学外フェローシップ・受賞歴です。

酒井啓太、SNP School Incentive Prize (SNP School 2020) (2020.12)
辻竜太朗、令和2年度東北大学修士論文物理学専攻賞 (2021.2)
                  理化学研究所大学院生リサーチアソシエイト (2021.4-2024.3)
                  日本物理学会2021年秋季大会学生優秀発表賞(素粒子論領域) (2021.9)
                  GP-PU Excellent student award (2024.2)
                  GP-PU QE2 Special Award (2024.2)
                  令和5年度東北大学博士総長賞 (2024.3)
長塚正人、令和3年度東北大学学士総長賞 (2022.3)
                  GP-PU QE1 Special Award (2024.2)
                  日本学術振興会DC1特別研究員 (2024.4-)
杉本悠斗、令和6年度東北大学修士論文物理学専攻賞 (2025.2)
                  日本学術振興会DC1特別研究員 (2025.4-)


最後に
大学院入試出願前の研究室訪問や面談希望の際には、あらかじめe-mailにてご連絡下さい。学外の方は、オンラインでの面談も可能です。

Email address: ssasaki_at_nucl.phys.tohoku.ac.jp ("_at_"を"@"で置き換えてください)
(私の居室は理学部合同B棟10階1048室です。)
#格子QCDシミュレーションの概要については2011年度に開催されたサマースクールの講義ノート[pdf]が多少参考になると思います。